リンパ腫とは?


リンパ腫は血液の細胞であるリンパ球ががん化した疾患であり、犬において最も発生頻度の高い悪性腫瘍の1つです。B細胞性とT細胞性に大別され、発生部位や悪性度などからも様々なタイプに分類されますが、リンパ腫は治療の主体は化学療法(抗がん剤)となります。 

犬のリンパ腫に対する新規治療薬 Verdinexor


最も発生頻度の高い大細胞性(高悪性度)B細胞リンパ腫ではビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロン併用療法(CHOP療法)が最も良好な治療成績を示す標準的なプロトコールとして確立しております。しかし、CHOP療法をもってしても残念ながら多くのケースで再発が認められ、2年生存率は約20%であり新しい治療方法が切望されています。

また、高悪性度のT細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫よりも更に治療成績が不良であり、多くのケースで早期に再発が認められます。

 

Verdinexor2021年に米国FDAにて承認を得た犬のリンパ腫の新規治療薬(経口剤)です。

Verdinexorは、既存の抗がん剤とは全く異なる作用機序であるため、上述のCHOP療法に耐性を獲得している腫瘍細胞にも効果を発揮する可能性があります。また、リンパ腫の多くの抗がん剤は注射薬であり特にCHOP療法では頻繁な通院や高額の治療費が必要となりますが、Verdinexorは経口薬(錠剤)であり頻回の通院が必要となるCHOP療法が様々なご事情のため現実的に実施困難なご家族にとって新たな治療の選択肢の1つとなりえます。

 

2023年時点で、Verdinexorの有用性は犬のリンパ腫における単剤治療での報告に限られますが、CHOP療法後のリンパ腫の再発防止のための維持治療としての使用や骨肉腫、膀胱癌、悪性メラノーマ、グリオーマなど固形がんでの有用性も期待されています。

実際、人医療においてはVerdinexorの姉妹薬であるSelinexorをリンパ腫の治療にCHOP療法と併用することでの相乗効果や、様々な固形がん(グリオーマ、悪性末梢神経鞘腫、卵巣がんなど)におけるSelinexorの抗腫瘍効果も報告されています。

 

モリタ動物病院ではリンパ腫の治療に用いる国内外の各種抗がん剤に加え、ご家族の様々なニーズにお応えできるように新規治療薬であるVerdinexorを取り扱っております。

 

取り扱い可能なリンパ腫の治療薬

・ドキソルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン

・ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン

・シクロホスファミド

・L-アスパラギナーゼ

・クロラムブシル

・ロムスチン、ニムスチン

・シタラビン

・Verdinexor

・プロカルバジン

・テモゾロミド

・イソトレチノイン(上皮向性リンパ腫)

 

犬のリンパ腫に対する半身照射(HBI)


近年、犬の高悪性度B細胞リンパ腫に対してCHOP療法中に完全寛解となった場合、CHOP療法の途中に放射線治療(半身照射)を組み合わせることで、寛解期間や生存率がCHOP療法単独と比較して顕著に改善したことが報告されました。


Matthew P. Best et al. "Long-term remission and survival in dogs with high-grade, B cell lymphoma treated with chemotherapy with or without sequential low-dose rate half-body irradiation." J Vet Intern Med 2023.

半身照射は一部の二次診療施設のみで実施可能な治療方法であるため、当院では放射線治療施設と連携しCHOP療法と半身照射の併用治療を取り入れております。