膀胱移行上皮癌とは?
膀胱の移行上皮癌は犬の膀胱腫瘍では最も発生が多い悪性腫瘍であり、血尿や頻尿、排尿困難などの症状が見られます。また、初期の段階ではこれらの症状が明らかではないことも少なくありません。
移行上皮癌は、膀胱三角と呼ばれる左右の尿管開口部と尿道への移行部を結ぶ三角形の領域に発生しやすく腫瘍の浸潤性も高いため、多くの場合外科切除には膀胱全摘出術が必要となります。一方で、移行上皮癌は化学療法(薬物療法)に対する反応性が良く、化学療法を中心とした治療も標準治療の1つとなります。
当院では、膀胱移行上皮癌に対して従来の細胞傷害性抗がん剤やCOX阻害剤だけではなく、近年報告された分子標的薬 ラパチニブを用いた最新の化学療法を含む様々な薬物療法を実施しております。
膀胱移行上皮癌の化学療法
🔹細胞障害性抗がん剤
いずれも注射薬となります。
犬で用いられる薬の用量は人と比較すると少なく、人でイメージされるような抗がん剤治療による脱毛や激しい嘔吐などの重篤な有害事象の発生率は犬では少ないですが、食欲不振や下痢、骨髄抑制は一定の割合で認められます。
🔹分子標的薬
腫瘍細胞の増殖や生存に関わるタンパク質であるHER2やEGFRを特異的に阻害する薬です。
2022年1月に国内における臨床試験の結果が公表され、犬の移行上皮癌に対して有効な治療方法であることが報告されました。
内服薬として投与可能であり、下記のCOX阻害剤ピロキシカムと併用することでピロキシカム単独よりも治療成績が改善することが示唆されています。
🔹COX阻害剤
一般的には非ステロイド性消炎鎮痛剤として使用される薬剤ですが、その作用機序であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害を介して腫瘍細胞の増殖を抑制します。
膀胱移行上皮癌には単独で効果が見られるケースもありますが、細胞傷害性抗がん剤やラパチニブとの併用による相乗効果も期待されます。
長期投与により腎障害や消化管障害が認められることがあります。