膀胱移行上皮癌とは?


膀胱の移行上皮癌は犬の膀胱腫瘍では最も発生が多い悪性腫瘍であり、血尿や頻尿、排尿困難などの症状が見られます。また、初期の段階ではこれらの症状が明らかではないことも少なくありません。

移行上皮癌は、膀胱三角と呼ばれる左右の尿管開口部と尿道への移行部を結ぶ三角形の領域に発生しやすく腫瘍の浸潤性も高いため、多くの場合外科切除には膀胱全摘出術が必要となります。一方で、移行上皮癌は化学療法(薬物療法)に対する反応性が良く、化学療法を中心とした治療も標準治療の1つとなります。

当院では、膀胱移行上皮癌に対して従来の細胞傷害性抗がん剤やCOX阻害剤だけではなく、近年報告された分子標的薬 ラパチニブを用いた最新の化学療法を含む様々な薬物療法を実施しております。

 

膀胱移行上皮癌の化学療法


🔹細胞障害性抗がん剤

  • ビンブラスチン(2週毎に静脈注射)
  • ミトキサントロン(3週毎に点滴)
  • ビノレルビン(1-2週毎に静脈注射)
  • カルボプラチン(3週毎に点滴)

いずれも注射薬となります。

犬で用いられる薬の用量は人と比較すると少なく、人でイメージされるような抗がん剤治療による脱毛や激しい嘔吐などの重篤な有害事象の発生率は犬では少ないですが、食欲不振や下痢、骨髄抑制は一定の割合で認められます。



🔹分子標的薬

  • ラパチニブ(1日1回, 内服)

 

瘍細胞の増殖や生存に関わるタンパク質であるHER2やEGFRを特異的に阻害する薬です。

 

2022年1月に国内における臨床試験の結果が公表され、犬の移行上皮癌に対して有効な治療方法であることが報告されました。

Lapatinib as firs-line treatment for muscle-invasive urothelial carcinoma in dogs.

Maeda S, Sci Rep, 2022

 

内服薬として投与可能であり、下記のCOX阻害剤ピロキシカムと併用することでピロキシカム単独よりも治療成績が改善することが示唆されています。



🔹免疫療法(抗体医薬)

  • モガムリズマブ(3週毎に点滴)

制御性T細胞という自己の免疫細胞の存在が腫瘍に対する免疫のブレーキとなっていることが分かっており、腫瘍の増殖と関連しています。モガムリズマブは腫瘍組織内に免疫のブレーキである制御性T細胞が引き寄せられないようにすることで、弱まっていた免疫を活性化し抗腫瘍効果を発揮します。

犬の膀胱移行上皮癌、前立腺癌において有用な治療として報告されております。

特に前立腺癌においては、2022年現在で報告されている治療方法の中でも最も良好な成績が得られています。

高価ではありますが、既存の抗がん剤よりも副作用が少ないという特徴があります。

 

CCR4 Blockade Depletes Regulatory T Cells and Prolongs Survival in a Canine Model of Bladder Cancer.

Maeda S, Cancer Immunol Res, 2019

 

Anti-CCR4 treatment depletes regulatory T cells and leads to clinical activity in a canine model of advanced prostate cancer

Maeda S, J Immunother Cancer, 2022

 



🔹COX阻害剤

  • ピロキシカム(1日1回, 内服)
  • フィロコキシブ(1日1回, 内服)

 

一般的には非ステロイド性消炎鎮痛剤として使用される薬剤ですが、その作用機序であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害を介して腫瘍細胞の増殖を抑制します。

膀胱移行上皮癌には単独で効果が見られるケースもありますが、細胞傷害性抗がん剤、ラパチニブ、モガムリズマブなどとの併用による相乗効果も期待されます。

長期投与により腎障害や消化管障害が認められることがあります。